【稲吉種苗】園芸情報 第32号
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ルの生産者団体による増殖、地域農協レベルの増殖、生産者による自家増殖へと、1サイクル4年を要しています。これまで、多くの都道府県において、公的関与の基で採算性を度外視して運営されてきましたが、施設の老朽化や病虫害対策の難しさが原因となり、近年では、この供給体制も崩れつつあります。 これに対し、種子繁殖型品種では、親株1株で2000粒程度の種子が得られるうえ、病害虫リスクの少ない種苗を効率よく生産することができます。もし、従来品種に置き換わる種子繁殖型品種が登場すれば、国内で必要な年間4億株の種子は、種苗会社が数社あれば1年で供給することが可能で、しかも、種子やセル苗の形態で、従来品種の種苗よりも遙かに流通に適したものになります。そのため、新しい種苗産業が誕生します。(2)栽培技術が変わる 図2に示すとおり、従来品種の慣行栽培では、前年に親株を準備しておき、それを春に定植(親株定植)し、春から夏にかけて発生するランナーで子苗を増やします。夏を越して秋に向かう短日低温条件で花芽を形成し、9月に定植(本圃定植)し、11月中旬~12月に収穫が始まります。 種子繁殖型品種の「二次育苗体系」は、この慣行栽培に準じたもので、7月上旬に、セル苗(406穴)を購入し、ポリポット等に鉢上げして育苗します。鉢上げ直後は小さな株ですが、8月にはランナー苗と同等の大きさに育つので、それ以降は、慣行栽培と同様に管理することができます。この体系は、育苗中、窒素コントロールによる花成促進ができるので、花芽分化が安定しています。慣行栽培に比べ、親株保管やランナー管理の必要がないうえ、病害虫感染リスクが大幅に低下する分、育苗労力を削減することができます。 「本圃直接定植体系」は、購入したセル苗を本圃に直接定植する方法です。セル苗の規格によって定植適期が異なり、小さい規格のセル苗で7月下旬、大きな規格のセル苗で8月中旬に定植することができます。本圃では窒素吸収を制限しにくいため、花芽分化が遅れたり不安図1 「よつぼし」の種子1.種子繁殖型イチゴ品種の特徴 従来のイチゴ品種は栄養繁殖で、親株から発生するランナーによってクローン増殖されます。親株と子株は遺伝的に同じなので、新品種の育種は、1株優れたものを見いだし、それを増やすだけで済みます。このように育種が容易なことが、栄養繁殖の最大の長所ですが、一方で、栽培面では、親株1株から採れる子株の数は年間約40株程度で増殖効率が悪く、また、病害虫が親株から子株へ伝染してしまうという短所があります。特に、炭疽病は甚大な被害をもたらすため、大きな問題になっています。 これに対し、種子(図1)は、1つの果実から100個程度採れ、1株から20個程度の果実が採れるので、年間の増殖率は2000倍程度。栄養繁殖の50倍の効率です。また、種子伝染する病気は非常に少なく、今のところイチゴではみられないことから、種子を用いることで親から子への病害虫伝染環を断ち切ることができます。さらに、種から育てた苗は、発芽後しばらくは小さいものの、急速に成長します。播種から3ヶ月程度で従来のランナー苗と同程度に成長するので、農家の育苗作業は大幅に省力化されます。2.期待されるイノベーション(1)種苗供給が変わる 従来の栄養系品種では、主に、都道府県単位で種苗の供給体制が整えられてきました。増殖効率が悪いため4段階の増殖が必要で、原々種の供給から、都道府県レベ(一社)種子繁殖型イチゴ研究会 事務局長 森 利樹(元三重県農業研究所)38イチゴ種子繁殖型品種「よつぼし」の誕生からイノベーションの実現へ

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